作品紹介
ベルギーの小さな地方都市。老年に差し掛かったアンナ(シャーロット・ランプリング)と夫(アンドレ・ウィルム)は、慎ましやかな暮らしをしていた。小さなダイニングでの、煮込みだけの夕食は、いつものメニューだ。会話こそないが、そこには数十年の時間が培った信頼があるはずだった。しかし、次の日夫は、ある疑惑により警察に出頭し、そのまま収監される。
しかしアンナの生活にはそれほどの変化はないかに見えた。豪奢な家での家政婦の仕事、そのパート代で通う、演劇クラスや会員制のプールでの余暇など、すべてはルーチンの中で執り行われていく。自分ひとりの食事には、もはや煮込み料理ではなく、簡単な卵料理だけが供されることくらいが、わずかな変化だった。けれどその彼女の生活は、少しづつ、狂いが生じていく。上の階から漏れ出す汚水、ぬぐうことができなくなった天井のシミ、そして響き渡るような音を立てるドアのノックの音…。なんとか日常を取り戻すべく生活を続けるアンナだったが、そこに流れ込むのは、不安と孤独の冷たい雫だった。
やがてそれは見て見ぬふりが出来ないほどに、大きな狂いを生じていくのだった…。